奈良の被差別民衆史

『奈良の被差別民衆史』

 これまでの調査により収集した史料から得られた歴史像を、中世から近代にいたる中間的な成果として取りまとめたものです。
 大和国・奈良県の部落差別の歴史過程を明らかにするために、被差別部落だけでなく、歴史的に形成されてきた多くの被差別民衆の歴史の全体像を検出し、大和国・奈良県の歩みのなかに位置づけて叙述しています。

 平成13年(2001)3月刊行 A5版 321頁。


 

目次

 刊行にあたって

 中世編

 序 大和国の被差別民の原像

  第一章 鎌倉時代の大和の被差別民

  第一節 北山非人と非人宿
       北山の所在地/北山の風景/北山非人と興福寺の用務/百姓役を負担する北山非
       人/北山宿の歴史像と内部構造/幻の大和七宿/鎌倉時代の大和の非人宿/鎌
       倉期大和の非人宿の所在地/非人宿の権益と乞庭/仏教と「癩」者救済の論理

  第二節 横行
       寺辺の横行たち/横行とは何者か/横行の組織と職能

  第三節 細工 
       草履作りと細工/寺辺の細工たち/細工と河原者

 第二章 南北朝・室町時代の大和の被差別民

  第一節 南北朝の争乱と被差別民の動向
   応永五年の評定/南北朝期被差別民たちの動向/局面の打開を求めて

  第二節 室町時代の宿・声聞師
   五ケ所・十座の登場/五ケ所・十座の職務とその組織/声聞師が持った呪力/「当国
   中数十ケ所之唱門」たち/移住する声聞師たち/北山宿の変容/室町期の大和各
   地の宿の動向

  第三節 細工・河原者の活動
   犬狩と馬医/刑吏としての細工/草履を献上する細工/作庭の名手たち/百姓とし
   ての細工

  第四節 興福寺支配から地域社会へ
   興福寺と三党体制/変貌する奈良町/地域社会と被差別民

 第三章 戦国期大和の被差別民

  第一節 声聞師と宿
   戦国期の大和の動向/五ケ所・十座声聞師のその後/宿から夙へ

  第二節 細工の動向
   天文一揆と追放された細工/浄土真宗の布教/草場の成立―斃牛馬処理の世界/
   北山十八間戸と「癩」者/天正検地と「かわた」「あをや」

 近世編

 序 天正十七年奈良町の風流

 第一章 近世奈良町の被差別民

  第一節 奈良町の成立と被差別民
   近世奈良町の成立/奈良町に住む被差別民

  第二節 「夙ノモノ」と「唱門衆」
   近世奈良町の「夙ノモノ」/奈良町に分住した「唱門衆」/奈良町の陰陽師と奈良暦の
   頒布

  第三節 奈良町の「穢多」と興福寺
   北山十八間戸の「癩」者支配/死鹿の処理と東之阪/犬狩りと大垣成敗

 第二章 大和国の被差別民

  第一節 幕藩体制と被差別民
幕藩体制と近世の村/村世界のなかの被差別民集落/百姓村に住んだ多様な人々

  第二節 近世初頭の多様な被差別民たち
   近世初頭の夙と声聞師/巡在する万歳村/葬送と三昧聖村/盲僧と座頭/「癩」者
   の勧進活動

  第三節 村社会のなかの「穢多」村
   農業経営にかかわる「穢多」村/神社祭礼と「穢多」村/「穢多」村における「家」/寺
   院と信仰/「穢多」村の職務

 第三章 地域社会のなかの被差別民

  第一節 夙村・三昧聖村の動向
   近世中期の夙村と五条家/三昧聖村と東大寺龍松院

  第二節 「穢多」村をめぐる地域社会の動向
   共同体のなかの「穢多」村/草場とその歴史像/草場の権益―斃牛馬無償取得/草
   場の権益―櫓銭・芝銭/青屋仲間と内在した矛盾

  第三節 変容する地域社会
   正徳四年の簡略仕法/簡略仕法の論理と新たな関係/消失していった芝銭・櫓銭/
   持ち出される由緒―河原巻物

  第四節 非人番制度
   非人番制度の創出/非人番をめぐる地域社会の動向

 第四章 「穢多」村の変貌と深化する差別

  第一節 成長する「穢多」村
   活発化する牛馬の買い取り活動/活用される斃牛馬の肉・皮・骨/「穢多」村の経済
   力と土地集積/人口の増加と矛盾の拡大

  第二節 「穢多」村をめぐる言説と賤視観念の深化
   生類憐れみ令と斃牛馬処理/深まる斃牛馬処理慣行の矛盾/村が作る新しい秩序
   のなかで

 第五章 近代への助走

  第一節 語られはじめる由緒
   夙村の由緒をめぐる言説から/中世的慣行を否定する三昧聖村/口寄せを廃業する
   神子村/「穢多」とは何か/西本願寺の「穢寺」取り扱い/三業惑乱と「穢寺」呼称の
   一般化

  第二節 地域社会に作られる新しい関係
   三昧聖をめぐる地域社会の動き/座頭と地域社会/小野御殿の画策と斃牛馬処理

  第三節 近代への道
   胎動する新世界/新しい関係をめざして

近代編

 序 近代の光景

 第一章 維新の変革と人々の生活

  第一節 明治四年―大和の四季―
   春―斃牛馬勝手処理令/夏―全国統一戸籍法/秋―「解放令」/民部省案と大蔵省
   案/晩秋―「解放令」の布達/「解放令」と戸籍編成/「解放令」の受容/冬―盲人官
   職の廃止/明治四年の意義

  第二節 文明開化がもたらしたもの
   四条県政の展開/開化政策の行方/さまざまな道/一村独立に向けて/斃牛馬処  
   理のその後/部落学校の建設

  第三節 自治を求める人びと
   町や村からあがる声/奈良県再設置に向けて/指導者の諸相/デフレを生き抜くた
   めに/デフレ下の部落/合併を拒む村々/衰えぬ教育熱/簡易科教場の設置

  第四節 市制町村制の施行
   連合戸長と地域社会/市制町村制の施行/組合村の成立

 第二章 部落改善の道程

  第一節 学校の統合を求めて
   生活文化の改善/ドーマンと米田庄太郎/小学校令の改正/葛下郡内の動向/部
   落学校分離反対運動/奔走する坂本清俊/掖上北小学校の設置/梅戸村の『哀願』

  第二節 貧困の発見
   奈良県の殖産興業/矯風の思想/明治二十三年の不況/貧困の理由/発見された
   貧困/湊文平の調査/矯風会の結成/定着する貧困像

  第三節 部落改善に向けて
   矯風会への反発/自省自戒自修/機織伝習場の設置/大和同志会への道

 第三章 「自ら解放せんとする」人々

  第一節 大和同志会の結成
   繰り返される調査/「何トナク異ナレル」/自治を鞏固にせよ/大和同志会の組織/
   『明治之光』の主張/根源を求めて/広がる同志会組織/苦難の大和同志会

  第二節 県政の転換
   活発な改善運動/洞の移転構想/橿原神宮の拡張計画/行き詰まる矯風事業/部
   落代表者協議会の開催/部落改善施設費の計上/鴨公村の提言

  第三節 水平社創立
   燕会の若者たち/それぞれの旅立ち/水平社創立へ/京都岡崎公会堂/広がる水
   平社/奈良県水平社の創立/さまざまな水平社運動/水平社に心を寄せた人々/
   徹底糾弾

  第四節 大和同志会と水平社
   地域社会と水平社/水国争闘事件/大和同志会の再建/大和融和会構想/分岐す
   る水平社

 第四章 戦争の時代を生きる

  第一節 水平社運動の展開と挫折
   農民組合を作りなさい/農民運動への期待/無産政党と水平社

  第二節 大和同志会と融和事業
   大恐慌のなかで/融和事業完成一〇ケ年計画/融和教育の道のり/融和教育研究
   会

  第三節 国家総動員
   水平社の転回/大和帰一会の結成/伝承と記憶

 おわりにあたって―新たな歩みのために

  注・参考文献

お問い合わせ

人権・地域教育課
〒 630-8502 奈良市登大路町30
人権教育係 TEL : 0742-27-9858
地域教育係 TEL : 0742-27-9837