『古事記』によれば、男神(おがみ)のイザナキノミコトと女神のイザナミノミコトが日本を創る「国生み」「神生み」の最後に、イザナミが火の神を生んで命を落としたと記されます。イザナキは妻の遺体にすがって泣き伏しました。その涙から生まれた泣沢女神(なきさわめのかみ)が、数々の神話伝承が残る香具山の西の麓、畝尾都多本神社に祀られます。 涙から生まれた女神のご神体は井戸。拝殿奥の禁足地に石玉垣、さらに板塀の神垣に囲われて鎮まります。 江戸期の国学者、本居宣長は『古事記伝』にて「水神」「人命を祈る神」、平田篤胤(あつたね)は「命乞いの神」と称するなど、水の神、延命の神として古代より信仰を集めてきました。「啼澤(なきさわ)の杜(もり)」と呼ばれる緑深い境内には、この神社に皇子の延命を祈ったが叶えられなかったという、桧隈女王(ひのくまのおおきみ)の万葉歌碑も残ります。この当時、すでに延命の神として信仰されていたことがうかがえ、「恨みの万葉歌碑」とも呼ばれています。 香具山は標高約152m。„神が天降(あまくだ)る山“とされ、天香具山(あまのかぐやま)とも呼ばれるこの山には『古事記』にまつわる古社がいくつも鎮座します。北麓には占いの神を祀る天香山(あまのかぐやま)神社、南麓には天岩戸(あまのいわと)神話が残る天岩戸神社、山頂には天地の根源神を祀る国常立(くにとこたち)神社、山腹にはイザナキ、イザナミを祀る上の御前と下の御前。 小高い丘のような山頂までは登山口から歩いて約10分。厳かな神の森で軽い山歩きを楽しめば、『古事記』の聖地が巡れます。
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