シルクロードの終着点・奈良。正倉院宝物は、その象徴です。色とりどりの宝物は、いにしえの大陸文化の輝きをしのばせます。 その一つが、「漆胡瓶(ぬりこへい)」と呼ばれる水差しです。斬新(ざんしん)なペルシャ風デザインは、時代を感じさせません。 さて、「漆胡瓶」の材料は何でしょうか。当初は、軽く丈夫なため、竹を籠(かご)に編み、表面は漆(うるし)仕上げと考えられました。「籃胎(らんたい)漆器(しっき)」と呼ばれるこの技法は、同時代に広く見られたためです。 ところが、宮内庁の研究者・木村法光(のりみつ)さんがレントゲン調査した結果、籃胎漆器には見られない平行線や階段状の影が現れました。テープ状に木や竹を巻き重ねた、別の技法だったのです。木村さんは、この技法を「巻胎(けんたい)作り」と名付けました。 木村さんは、中国や韓国にも同じ技法が残ることを見つけました。さらにタイ・チェンマイに巻胎作りのルーツとなる手がかりを突き止め、現地を訪れました。現地職人に「漆胡瓶」の写真を見せ、巻胎作りがタイに残るか尋ねたところ、「では、この瓶をいくつ作りましょうか?」と返したといいます。タイでは、今も巻胎作りが受け継がれていたのです。 「漆胡瓶」は、西方とタイの技術が見事に融合しています。開催中の「正倉院展」のポスターを飾る「鳥毛立女屏風(とりげりつじょのびょうぶ)」も、中国と日本とのゆかりを示すことで有名です。正倉院宝物を眺めながら、品々に秘められた各国とのゆかりを楽しんでみてはいかがでしょうか。
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