みなさんは、「菜(な)っぱのたいたん(炊き物)」に、何を入れますか? やはり大和では、真菜が多いのでしょうか。関西の他の地域では、しろ菜、小松菜、はく菜のいずれかを入れるところもあれば、菜とつくものなら何でも入れるというところもあるでしょう。 古代の菜も、特に限定はなく、葉や茎(くき)の食べられる野菜全般を指しますが、万葉歌を見ると、海藻(かいそう)まで含み、そのうえ恋の歌の中で、女性の比喩としても用いられます。 このように、幅広く用いられている万葉歌のなかで、菜が詠まれた最も有名な歌が右の初瀬の歌です。 雄略天皇が作ったと伝わるこの歌は、天皇が国土を支配しているようすを高らかに歌い上げたもので、冒頭歌としてふさわしい歌だと言われています。 その中に、菜の話が出てくるのは不思議かもしれませんが、記紀を見ると、雄略天皇は、初瀬の宮殿から外に出かけて、うるわしい女性を見つけては、声をかけて素性を聞くという逸話がしばしば見られます。その際に若い女性は、仕事の最中であることが多く、この歌では、菜摘みをしているところでした。籠(かご)と篦(へら)をもって菜を摘むようすは、よく見られた光景だったのかもしれません。 この歌の菜が何の菜か気になるところですが、古代の人も、今と同じように温かい「菜っぱのたいたん」を食べていたのではないでしょうか。 (本文 万葉文化館 竹本 晃)
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