当館では4月16日から特別展「生誕130年記念 髙島野十郎展」が開幕いたしました。髙島野十郎は明治23(1890)年に現在の福岡県久留米市に生まれ、東京帝国大学農学部水産学科を首席で卒業するも画業の道へと進んだ珍しい経歴の作家です。画壇はおろか、世間との交わりからも距離を置こうとし、独立独歩による画業を追求した生涯を送ったため、その存在が広く知れ渡ったのは没後になってからでした。現在では幾度かの大規模な回顧展を経て、写実的な作風を追い求めた「孤高の画家」、そして数多く描かれた蝋燭の作品から「蝋燭の画家」とも呼ばれ、幅広い人気を得ています。
本展はそんな髙島野十郎の関西では初となる本格的な回顧展です。久留米市美術館に続く2番目の会場となる当館では、巡回館の中でも最多の点数となる115点の作品と、関連する資料によって、この作家が歩んだ画業をご紹介します。風景画や静物画を主に描いた野十郎ですが、本展では代表作として知られる「蝋燭」、「からすうり」以外に、今回が初の全国紹介となる作品も展示します。何気ない風景や文物を通して表現される、緻密に、そして対象をまっすぐに見つめる中で生まれた作品の数々から、その無二の魅力を感じていただく展覧会です。
本展の展示構成は、髙島の作品を時系列でご紹介しつつ、最後に「光と闇」をテーマとした作品をまとめることで、作家が見つめ、表現したものについて深度を深めるようにご覧頂く章立てになっています。数年をかけて企画してきたこの展覧会ですが、折からのコロナ禍の影響で本展も大きな変更を余儀なくされました。このような状況の中で開幕を迎えられたこと、ご協力いただきました皆様に感謝を申し上げます。
対象と向き合い、その存在を描ききろうとする髙島の作品を見るとき、またそれぞれに多様な感覚が呼び起こされるようでもあります。ひとりの作家が描こうとした写実の“実”、それをご覧になって頂ければと思います。
深谷 聡 (展覧会担当学芸員)