ここでは当館学芸員のコラムを随時掲載していきます。
小さなお客さまが美術館にいらっしゃいました 〜「0歳からの家族鑑賞ツアー」〜
11月6日
山本雅美(学芸課長)
学芸課長の山本です。4月からリニューアルした「学芸員の部屋」ですが、展覧会ごとに担当学芸員が調べたことや考えたことをエッセイ風にお伝えするものとして、さまざまな話題を提供しようと運営しています。
さて、今回は、10月13日(日)に開催した「エドワード・ゴーリーを巡る旅」展関連イベント「0歳からの家族鑑賞ツアー」について報告します。
このイベントは0歳から小学生のお子さまとその保護者を対象にし、小さな子どもたちと一緒に展覧会を楽しむための秘訣をお伝えする鑑賞ツアーとして企画しました。エドワード・ゴーリーは20代~30代の若い世代にも人気の作家であることから、「子育て世帯にもゴーリーファンがいるに違いない」と考え、そのような人たちが家族で美術館に来館することにハードルを感じないようにするために、美術館に何が出来るかと考え、本イベントを開催しました。
このような考えに至った背景には、昨今、美術館には「誰もがアクセスしやすい美術館に向けた取り組み」を行うことが求められていることがありました。「ミュージアムと合理的配慮」という概念で示されるこの考え方*は、2018年の「文化芸術基本法」の改正において、基本理念として「年齢、障害の有無または経済的な状況にかかわらず等しく文化芸術を鑑賞できるための環境の整備」が重要視されたことや、2022 年には ICOM(国際博物館会議)のミュージアムの新定義に「誰もが利⽤でき、包摂的であって (accessible and inclusive)」という言葉が含まれたことに起因します。そして、2023年4月に改正された博物館法にもその精神は引き継がれています。いわば、現在の美術館は、“社会の縮図”として、多様な来館者に開かれ、それぞれ人々が思いのままに楽しめる場であること、つまり「共生社会」を実現する現場のひとつなのだと言えるでしょう。
難しい話はこのくらいにして、「0歳からの家族鑑賞ツアー」に戻ります。今回は、石川県立美術館やちひろ美術館・東京など、多くの美術館や博物館で「赤ちゃん鑑賞会」を実施している冨田めぐみさん(NPO法人赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会代表理事)に講師を依頼しました。30年以上、この領域で活動する冨田さんとは、2013年に平塚市美術館での「赤ちゃん鑑賞会」を見学させていただいて以来、10年以上の付き合いになります。2014年の「ワンダフルワールド」展(東京都現代美術館)で赤ちゃん鑑賞会を実施して以来、折に触れて私が企画した展覧会で「赤ちゃん鑑賞会」をご一緒してきました。
今回の赤ちゃん鑑賞会で印象的だったのは、参加者にお父さんが多かったことでした。これは10年前の「ワンダフルワールド」展の時とは大きな違いでした。それだけ男性の育児参加が進んだのか、たまたま連休の中日だったからかはわかりませんが、子どもたちがお父さんに抱っこしてもらい、顔を触れ合わせながら、ゴーリーの絵を見る姿はとても微笑ましいものでした。小さな子どもたちはこの経験を忘れてしまうかもしれませんが、記憶の底に「美術館が親子の楽しい時間を過ごした場所」であることが残るとうれしいなと思います。
美術館は誰もが気楽に立ち寄れ、楽しめる“公園”のような場所であってほしいと思っています。奈良県立美術館では今後も来館者みなさんが主役になれる「みんなの美術館」の実現を目指して、さまざまな試みに取り組んでいきます。
(写真)イベントの様子:今回好評をいただき、2025年3月にも赤ちゃん鑑賞会を開催する予定です。詳細が決まりましたら、当館ホームページでご案内します。
*国立アートリサーチセンター:国立アートリサーチセンター|活動レポート|DEAIリサーチラボ発足と「合理的配慮」について
[バックナンバー]
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第69回(2024年6月16日):小川晴暘と飛鳥園 100年の旅(2)(三浦敬任)
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