学芸員の部屋

ここでは当館学芸員のコラムを随時掲載していきます。


奈良に現代美術ってあるの?〜シンポジウム「奈良で生きて、表現する―奈良ゆかりの現代作家展をめぐって」を開催しました

 

山本雅美(学芸課長)

2025年3月9日

 

この冬、当館では、無料スペースの一角にあるギャラリーを会場に「奈良ゆかりの現代作家」を紹介する展覧会シリーズを開催しました。このギャラリーは、2023年春に地域ゆかりのアートや文化、教育活動を紹介する目的で設置され、今回は奈良県出身・在住の二人の現代作家、今西真也さんと赤松加奈さんの個展をリレー方式で行いました。

 この展覧会の開催を記念して、2月15日(土)にシンポジウム「奈良で生きて、表現する―奈良ゆかりの現代作家展をめぐって」を行いました。今回の「学芸員の部屋」ではこのイベントについてご報告いたします。

本イベントは、奈良県出身で、現在、山形の東北芸術工科大学教授である三瀬夏之介さんをお招きして、今回の出品作家の二人、今西さん、赤松さんにもご登壇いただき、「奈良で現代美術をすること」について議論するものでした。

何故、このようなイベントを開催したのかというと、今回、ギャラリーで「奈良ゆかりの現代作家」の展覧会を開催するにあたり、奈良出身のアーティストやアート関係者と議論をしていくなかで、「地方で、奈良で、現代美術作家として活動することは可能なのだろうか?」という疑問が出てきました。なぜなら、奈良県には現代美術を積極的に扱う美術館はほとんどなく、また民間のギャラリーなどもありますが、その規模は東京や京都のそれとは比べ物にならないほど寂しいものです。「地方」という問題です。もちろん、「奈良・町家の芸術祭 はならぁと」や「学園前アートフェスタ」などの地域アートプロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスなど、地域の人々の暮らしのなかや街並みのなかに現代アートが溶け込んでいることは特筆すべきことです。しかし、いわゆる「ホワイトキューブ」といわれる展示室のなかで展覧会が行われるという状況は、奈良には乏しいのではないかと思いました。

それゆえ、当館のギャラリーは、あえてきちんとしたホワイトキューブにして、とんがった現代美術を呈示する。それを地元奈良の若手作家(今回の作家は二人とも30代半ばです)が行うということで、「奈良に現代美術ってあるの?」という疑問に答えようとしました。

 

 

                              (写真)シンポジウムの様子

シンポジウムでは、三瀬さんに、大学院修了後、奈良に戻り暮らしながら作家活動をしていた時のこと、現在の山形での活動、これから奈良で取り組みたいテーマについてお話しいただきました。印象深いのは、20代後半に記したテキスト「奈良ってカッコワルイと思っていた」(スキマプロジェクト、2002年)において、「いつのころからか『奈良』は何もないところだと思うようになっていました。(中略)けれども『何もない』場所などないのです。ただそこにあるものにも、ちゃんと目を開けばたちまち興味や疑問がわいていきます」とあるように、「奈良で現代美術をすること」についての不可能性と可能性についての葛藤と戸惑いがあったと語っていたことです。

 今西さんや赤松さんも、大学院修了後、奈良に戻り作家活動を始めます。10年前のことです。しかし、二人とも、三瀬さんのような葛藤はなかったと語っています。なぜなら、すでにインターネットやSNSによって、奈良にいながらも東京もしくは世界につながる方法があったからです。近代以降、常に問題になっていた美術における「中央」と「地方」の対立は、もしくは「地方」の問題は、インターネットの普及により、簡単に乗り越えられるものであったことが実感できた瞬間でした。

 最後にフロアから「県立美術館に期待すること」という質問が投げかけられました。県立美術館がこれから「奈良で現代美術をすること」の拠点となるためにはどのような方向性を目指すべきか。赤松さんからは、奈良の高校生が美術を学ぶには県外の大学に出なくてはならない。彼らが大学を卒業して奈良に戻った時に自分たちの表現を発表できる場所があることが大切である。また、高校生や若い子が奈良で現代美術に触れる場所があってほしいという話がありました。今西さんも、古代から外来の「わからないもの」を受け入れて来た奈良の風土には、いわゆる「わからない」といわれる現代美術を理解する余地があるのではないかと話していました。

今回のシンポジウムを通して、奈良という古く歴史のあるものと新しいものが混在するこの土地の状況をどのように美術館の中で表現していくのか、そのためには、現代美術を扱うだけでなく、過去の美術や文化を研究することも美術館の役割だと改めて感じました。過去に思いを馳せ、現在を生き、未来を作っていく。そのような美術館を目指して、私たちは未来を見る力を持つアーティストと共に活動していく。それこそ奈良のユニークさであり、「奈良で現代美術をすること」につながるのだと考えました。

 

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