現代美術風に「無題」(Untitled) としましょう [1](2021年5月1日)

 残念ながら昨年の緊急事態宣言の時期に引き続き再度臨時休館した当館ですが、髙島野十郎展の次は近代デザインの巨匠ウィリアム・モリスの展覧会を開催する予定です(会期:6月26日~8月29日)。内容については展覧会がもう少し近くなってから書くことにしたいと思いますが、モリス展の記念講演会には、大阪中之島美術館の菅谷富夫館長を講師としてお招きする予定です。
 大阪中之島美術館なんてあったっけ、とお思いの方がいらっしゃるかも知れません。実は来年2月にオープンする、まだ出来ていない(!)新しいピッカピカの美術館なのです。国立国際美術館のすぐ北側で着々と工事が進んでおり、外観はかなり完成に近づいています。この美術館の多彩なコレクションのテーマの一つに近代・現代デザインがあって、ウィリアム・モリスが先導したアーツ・アンド・クラフツ運動の作品も収蔵しています。菅谷館長は、かつて滋賀県陶芸の森で学芸員を務めた経験もあり、デザイン・工芸分野の方ですので、今回講師をお願いした次第です。

 話はウィリアム・モリスからどんどん脱線(?)していきますが、大阪中之島美術館は大阪市が設置する市立美術館です。すでに記したように、すぐ隣には国立国際美術館があります。国立と市立の美術館があるのなら、大阪府立の美術館もあるんじゃないか、とお思いになりませんか。大阪府ほどの大きい自治体なら、美術館の一つや二つ持っていてもおかしくありません。なにしろ大阪市立の美術館となると天王寺公園の市立美術館、中之島にある東洋陶磁美術館に続いて中之島美術館で3館目です。
 ところが、大阪府立の美術館は、現在ありません(注:美術分野以外の博物館であれは府立館があります)。文科省の統計によると、いま全国には軽く1,000館を超える美術館があります。そして都道府県立の美術館(博物館ではなく)が存在しないのは、私の認識が間違っていなければ、大阪府と山形県だけなのです。私自身、生まれも育ちも大阪ですので、これはいささか寂しい。
 実を言いますと、かつて大阪府には、大阪市と同様に府立の美術館(それも現代美術館)を大阪市内に作ろうという構想がありました。それは平成のかなり初期のお話です。より正確に言うと、現代美術館を中核とした現代芸術文化センター(仮称)という複合施設の予定でした。そして構想だけではなく、コレクションの収集活動も行っていたのです。しかしながら、残念なことに現在その構想は無期限的な凍結、事実上廃案に近い状態になってしまいました。
 2012年になって大阪府立江之子島文化芸術創造センター(enoco)という施設が出来ましたが、性格・機能的には『ミュージアム』と少し肌合いの異なる文化センターです。ただ、ここが管理している大阪府20世紀美術コレクションというのは、もともと現代芸術文化センターのために収集したものでした。

 なぜ奈良県立美術館の学芸課長が隣の大阪の話をくどくど書くんだろう、と疑問に思われるかも知れません。ここで、またしても「実を言いますと」なのですが、その大阪府立の現代芸術文化センター(仮称)設立構想のために採用された最初の学芸員が、ほかならぬ私だったわけです。平成元年(1989)のことですから、もうずいぶん昔の話ですね。実際のところ、私は大阪府を3年半ほどで辞めてアメリカへ逃げ出し(?)ました。私の在職中は岸知事・中川知事でしたが、次の山田(横山ノック)知事の時に現代芸術文化センター構想は凍結されています。
 ちなみに私は奈良県に来てまだ2年と1箇月にしかなりません。学芸員の仕事は昭和62年(1987)からずっと続けておりますので、大阪と奈良以外でも仕事をしてきました。令和になったことだから昔ばなしでも、というわけではありませんが、ウェブサイトにこのようなコーナーを作りましたので、美術館と学芸員に関することなど、ときどき駄文を上げてみようと思っております。

安田篤生 (学芸課長)

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