現代美術風に「無題」(Untitled) としましょう [4](2021年5月18日)

 昨年来、世界は新型コロナウイルス感染症に覆われてしまいましたが、日本は今年が東日本大震災からちょうど10年でしたね。それより以前、1995年に関西では阪神淡路大震災がありました。震災後に生まれた方々も成人して社会に出られる時代になりましたので、体験していない方も増えてきました。1995年当時、私はすでに東京に転職していたので直接体験はしていませんが、神戸市と西宮市に住んでいた親戚がどちらも自宅全壊の憂き目にあいました。
 阪神淡路大震災では、主に兵庫県に立地する美術館がいくつも深刻な被害を受けました。芦屋市立美術博物館や西宮市大谷記念美術館などは長期休館を強いられましたが、震災の被害を乗りこえて現在も活動を続けています。安藤忠雄が設計したことでも知られる神戸市の兵庫県立美術館は2002年のオープンですが、ここはいわゆる震災復興事業のひとつとして作られたことはご存じでしょうか。


 神戸市には1970年オープンの「兵庫県立近代美術館」が王子動物園の向かいにありました。関西の若手現代美術家を積極的に取り上げた「アート・ナウ」展など意欲的な活動をしていましたが、村野藤吾設計による本館が震災で甚大な被害を受け、長期休館となりました。復旧工事を終えて再出発したものの、新たにウォーターフロントに「兵庫県立美術館」が作られることとなったため、その役割を終えて閉館しました。現在、旧本館は「原田の森ギャラリー」、旧西館は「横尾忠則現代美術館」として再生利用されています。参考までに公式ウェブサイトの 沿革に関するページのリンク外部サイトへのリンク を貼っておきます。
 震災・災害時におけるボランティア活動が社会的にクローズアップされたのは阪神淡路大震災の時からだったように思います。被災した美術館に対しては、全国美術館会議などの関係団体がいわゆる文化財レスキュー事業を行いました。このときは手探りの状態ですが、この文化財レスキューの経験はその後の東日本大震災なとでも生かされたと言えます。

 阪神淡路大震災や東日本大震災だけでなく、あちこちで自然災害が発生し、これからも起きる可能性はあります。1973年にオープンした奈良県立美術館も古い施設ですので、2019年の暮れから2020年の初めにかけて臨時休館し、応急的な耐震補強工事を実施したところです。
 こうした災害時において美術館に何が出来るだろう、ということもときどき考えます。2016年の熊本地震では熊本城が大きな被害を受けましたが、熊本城からほど近い 熊本市現代美術館の岩崎千夏学芸員によるレポート外部サイトへのリンク を読むと、そんな非常時でも美術館の存在意義があるのだと感じることができました。

 

安田篤生 (学芸課長)

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