前回は昨年の特別展「熱い絵画 大橋コレクションに見る戦後日本美術の力 (展覧会チラシ pdf 2049KB) 」(会期:2020年4月18日~7月5日)について書きましたが、もう少しだけ触れてみたいと思います。
ちょうど今、東京・六本木の森美術館では「 アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人 」という展覧会を開催中です(9月26日まで)。題名通り、国際的に活躍する各国の女性アーティストに注目する展覧会ですが、全員が70歳以上、中には100歳超えもいるという、「超」が付くほどベテランぞろいの構成なのが面白いところです。また出品作家の中には、かなりの年齢になってから国際的に脚光を浴びるようになった遅咲きのアーティストもいるようです。
今の美術界では若手からベテランまで実に多くの女性アーティストが活躍しています。そういう私も前の勤務先(原美術館)では女性アーティストの個展をいくつか担当しました(やなぎみわ、野口里佳、米田知子など)。しかし「アナザーエナジー展」に出品している世代のアーティストが若手だった頃は、美術の世界もまだまだ男性優位だったと言えます。実際、第二次世界大戦後(20世紀後半)の現代美術をテーマに展覧会を企画しようとすると、どうしても出品作家は男性が多くなります。
1950~60年代の日本美術の前衛に焦点を当てた「熱い絵画」も同様で、出品作家33名のうち女性はわずか6名でした(桂ゆき、田中田鶴子、江見絹子、草間彌生、宮脇愛子、今中クミ子)。このうち草間彌生ただ一人が健在で、「アナザーエナジー展」のアーティストたちと同じく今も国際的に活躍しています。その一方、中には現在あまり語られる機会のない作家もいます。しかし時が流れて再び注目される日がやってくるかもしれません。実際、桂ゆきは没後再評価の機運が出て、2010年代になると生誕100年を機に東京都現代美術館で 個展 が開かれたりしました。
草間彌生よりも年上になる、桂ゆきや田中田鶴子のように第二次世界大戦前にデビューした女性アーティストは、戦後間もなく女流画家協会の設立にかかわるなど、男性優位の画壇の中でパイオニアとして奮闘した世代です。1950年代の現代美術は圧倒的に欧米が中心でしたが、その当時から欧米の美術館で発表の機会を与えられるなど、先導的な役割も果たしました。草間彌生はもともと若い時期に欧米で活躍しましたが、1993年の第45回ヴェネチア・ビエンナーレ展に日本代表として出品し(このとき原美術館所蔵の「ミラールーム(かぼちゃ)」が評判になりました)、世界的にあらためて注目し直され、現在まで人気作家の位置を保っています。このヴェネチア・ビエンナーレ展に国を代表して選ばれることは作家にとって栄誉なのですが、実は女性作家で初の日本代表に選出されたのは、「熱い絵画」展にも登場する江見絹子なのです(1962年第31回展)。
「熱い絵画」展は「大橋コレクション」の再検証をテーマにしていたため、大橋コレクションの中には無いので取り上げられなかった女性アーティストもいます。田中敦子は奈良県にゆかりがあって国際的にも評価されているアーティストなので、大橋コレクションに作品が無いのがまことに残念でした(当館のコレクションにはあるのですが)。いまグーグルで「田中敦子」を検索するとアニメ『攻殻機動隊』などで知られる声優さんが上位に来ますがもちろん同名異人で、その大胆な実験精神で国際的に高く評価された関西の前衛美術集団「 具体美術協会 」を代表するアーティストの一人であり、奈良県明日香村のアトリエで制作していました。
安田篤生 (学芸課長)