先月末頃、国際的に知られたイスラエルの彫刻家ダニ・カラヴァン(Dani Karavan 1930-2021)の訃報をニュースで目にしましたので、カラヴァンと奈良の縁について少し書きたいと思います。
高松宮殿下記念世界文化賞(1998年彫刻部門)も受賞したカラヴァンは、周辺の環境や風景と一体になった壮大な彫刻…というよりも環境芸術とか大地の芸術と呼んだほうがしっくりくる壮大な作品で知られるアーティストです。日本では札幌芸術の森野外美術館や鹿児島県の霧島アートの森、宮城県美術館などに常設展示されていますが、奈良県内にもカラヴァンの雄大な作品があるのをご存じでしょうか。
それは室生寺がある宇陀市の室生地区に作られた「室生山上公園芸術の森」です。公園に作品があるのではなく、山の斜面を巧みに使って作られた公園それ自体がカラヴァンの作品そのもので、公園を散策することでカラヴァンの表現を体感する、まさに「大地の芸術」と言えるでしょう。画像は去年の秋に私が撮ったものですが、これでも公園の一部に過ぎません。赤錆びの風合いが特徴的なコーテン鋼のモニュメントも環境と調和して、造形と自然が融合した景観を生み出しています。
ここは当初、室生出身で芸術選奨受賞者の彫刻家井上武吉(1930-97)による構想が発端ですが、急逝したためにカラヴァンが引き継いで2006年に完成させたとのことです。「室生山上公園芸術の森」は近鉄大阪線の室生口大野駅から自動車でのアクセスになります。室生口大野には室生寺のほかに磨崖仏で知られる大野寺もあります。(注:宇陀市ホームページによるとコロナ禍対応で6月20日(日)まで宇陀市外からの入園は制限されるとのこと)
体感するアートとしての公園というと、荒川修作とマドリン・ギンズによる「養老天命反転地」(岐阜県養老町)も知られていますね。こちらはカラヴァンとはまたタイプの異なるユニークな体感する場を創り出しています。美術館の館内に展示する作品や公共の広場に設置したモニュメントとは一味も二味も違う、鑑賞者自身がその一部となって体感する、現代美術ならではのこうした試みにも足を運んでいただければと思います。
安田篤生 (学芸課長)