解説
富本の代表的な模様の一つ、四弁花の連続模様を用いた作品。蓋の上面に紫・黄・緑色の四弁花模様を交互に、中心から六つの角に向かって放射状に配置しており、動的な印象を与える。蓋を開ければ筥の中に六弁の花が並び、内側面や口縁部にも色絵が施される。細かい部分まで手を抜かない仕事ぶりに驚かされる。
四弁花のモチーフはテイカカズラという小さな白い五弁の花をつける蔓草で、自宅の玄関脇に植えられていたのをスケッチしたものである。子どもの頃、花の中心に糸を通して吹くと花弁が風車のように回ったという思い出のある花で、富本にとってはこれもまた身近な存在の植物であった。
始め五弁で考案したものを四弁にして連続模様として使いやすくし、花弁のねじれを表現するために突端を中心に向かって折り曲げたりして、数種のものを創作している。単独の模様として使う一方、本品のような連続模様のタイプはインドの更紗との類似から更紗模様とも呼んでいる。