特別展「生誕130年記念 髙島野十郎展」開催中です。前回の更新からすぐに、臨時休館となってしまいました。大変残念ではありますが、世の中の状況が少しでも好転することを願うばかりです。
今回の髙島野十郎展は、1章から4章までを時系列、最後の5章を「光と闇」という章立てで転じていますが、画風の変遷を辿っていく中で最も変化が大きいのが画面の色彩です。初期の作品は当時注目を集めていた岸田劉生を中心とした「草土社」の影響を受けたとみられる茶系統の重厚な色彩が特徴ですが、ヨーロッパでの経験を経て、画面の色調は明るく、緻密ながら端正なものへと変化していきます。特に3章~4章の作品に多く見られる、ややピンク~紫がかった画面の色調は、野十郎作品の個性のひとつといえます。
ところで、そんな作品の変化を実際の展示でご覧いただくために重要な要素の一つが展示照明です。実際のところ、美術館での展示によって作品に余計なダメージがあってはいけませんので、展示にあたっては様々な条件があるのですが、照明ももちろん、作品ごとに決められた明るさ(照度)の制限の中で鑑賞していただくことになります。例えば水彩画や染織品は特に繊細なため暗く、金属や陶磁器は比較的明るく、といった傾向がありますが、野十郎作品は油彩画ですので、美術品の中ではやや明るめでも可、それでも一般的な室内と比べると大変に暗い環境で展示しています。
当館ではそんな厳しい条件の中でもなるべく作品の魅力を楽しんでいただくために、照明の専門家の方に協力していただいております。その方曰く、「照明が当たっていないように見えるのが理想」。照度をはじめとした展示の条件をクリアしつつ、作品の鑑賞に集中してもらうためには、これみよがしに演出された照明だとそれさえも鑑賞の余計なノイズになってしまうという考えです。照明作業は部屋(会場)全体の照度を整えることにはじまり、作品全体を均一に明るく、そして作品ごとの注目するポイントを意識して、そして発色と色味のバランスの調整、最後に数値では計れない作品の魅力が引き出せているかを、精密な調整のための分厚い基礎的な技術と、膨大な経験に基づいたバランス感覚で実現していだいています。
簡単に説明しましたが、例えば作品の掛かっている壁の明るさが全ての展示室で同じ明るさになるように、作品も画面の上下左右で明るさが変わらないように、更には作品の展示されていない壁や通路の明るさに至るまで、設備的に可能な限りコントロールして調整していただいています。余談ですが、筆者はこの照明担当の方との出会いをきっかけに、プロの仕事の重要な点のひとつに、「コントロールできる要素の多さ」を強く意識するようになりました。現在当館で使用しているスポットライトは主にLEDのライトですが、数年前まではハロゲン球でした。その当時、まず電球を全て点灯して、同じ種類の電球ですが生産時期と使用頻度によるわずかな色味の違いをグラデーションの様に並べて、照明の光の色の変化の違和感を少なくするように工夫する、またスポットライトの角度ひとつずつ計りながら0.1度単位で揃えていただいているのを見た時にはとても驚いたものです。
現在は臨時休館中のため、実際に展示室で体験いただくことは叶いませんが、再開の折には是非、そんな照明で照らされた作品をご覧になって頂きたいと思います。
深谷 聡 (展覧会担当学芸員)