当館の特別展「ウィリアム・モリス 原風景でたどるデザインの軌跡」は8月29日までということで、会期も残り少なくなってきました。関西の美術館を見渡してみると、兵庫県立美術館では「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド-建築・デザインの神話」が8月29日まで、京都国立近代美術館では「モダンクラフトクロニクル―京都国立近代美術館コレクションより―」が8月22日まで開催中です。前者は20世紀のモダン建築・デザインに大きな足跡を残したフィンランドのアアルト夫妻に焦点を当てたもので、後者は明治から現代までの工芸および工芸素材・技法を使った国内外の美術作品を紹介するものです。
しかしながら、このような企画展・特別展は別として、いつでもデザインの展示を見られる美術館というのは、日本では意外と少ないのが実情です。当館にも奈良出身のグラフィックデザインの巨匠・田中一光のまとまったコレクションがありますが、いつも展示しているわけではありません。
そんな中で紹介しておきたいのは、東京ミッドタウン(赤阪)にある 21_21 DESIGN SIGHT です。世界的なファッションデザイナー三宅一生が創立したデザインのための展示施設で、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団が運営しています。安藤忠雄設計による建築もそれ自体作品と言えるでしょう。21_21 DESIGN SIGHTは今世紀にオープンしましたが、東京都内で古いところでは 日本民藝館 も見落とせません。こちらは、「美の生活化」を目指す「民藝」運動の本拠として、柳宗悦が主導して戦前に作られた歴史のある施設です。民藝運動にはウィリアム・モリスも影響を与えているという考察もあります。
地方で紹介しておきたいのは 富山県美術館 です。こちらは前身の富山県立近代美術館時代からデザインにも力を入れてきましたが、移転・新築と同時に「Toyama Prefectural Museum of Art and Design : TAD」と英語公式名称にデザインが入り、デザインの常設展示室もできました。近代美術館の頃から続く「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」展も今年で第13回となり、9月5日まで開催中です。
あいにくのコロナ禍で、ぜひ訪れてみてくださいと気軽におすすめできないのが残念ですが、紹介だけしておくことにいたします。
欧米に目を転じてみると、やはりデザインのための美術館にも歴史があると言えるでしょう。著名なロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館(V&A)は工芸・デザインにも力を入れた美術館として、1852年(ロンドンでの第1回万国博覧会の翌年)に創立されました。日本の近代陶芸の巨匠・富本憲吉(当館ではモリス展と同時開催で特集展示をしています)も、イギリス留学中は足繁くV&Aに通って所蔵品のスケッチをしたということです。そしてロンドンには1989年、世界初のモダンデザイン専門美術館としてその名もずばり、デザイン・ミュージアムが設立されました。私も訪れたことがありますが、近現代のデザインを堪能できる場所です。一方、アメリカでは1897年、ニューヨークにクーパー・ヒューイット国立デザイン博物館がオープンしています。欧米にはその他にもデザインミュージアムはいくつもあり、パリ装飾美術館も著名ですが、私が実際に行ったところだけでもベルリンのバウハウス・アーカイブ、ウィーンのMAK(応用美術館)、ヘルシンキのデザイン・ミュージアムはいずれも見ごたえがありました。日本にももう少しあってよいように思う次第です。
安田篤生 (学芸課長)