奈良県立美術館 Nara Prefectural Museum of Art
「美人若衆見立高砂図(びじんわかしゅみたてたかさごず)」
西川祐信(1671-1750)
一幅 江戸時代(18世紀)
絹本著色 99.7×44.0cm
奈良県立美術館40選
浮 世 絵
解説
能「高砂」は、一つの根から二つの幹に分かれた相生(あいおい)の松を素材にして、常緑の松のめでたさ、夫婦の長寿をたたえるもので、登場する尉と姥は、絵に描かれることが多い。
京都の浮世絵師西川祐信(にしかわすけのぶ)は、江戸の粋(いき)とは異なる典雅な作風によって、青年と美少女を、高砂の尉(じょう)と姥(うば)になぞらえて描いている。こうした見立て(みたて)という手法は、伝統を受け継ぎながらも、現代を主張し自己をきわ立たせようとするものであろう。少女の着物にある蔦に波の模様は、ほかの女のもとへ通っていく夫の身を案じつつ「風吹けば 沖つ白浪 たつた山 夜半にや君が ひとりこゆらむ」と詠んだ『伊勢物語』の女性のやさしい心を象徴するようである。夫婦長生の世界と重なり合いながら、夫婦のさまざまな心の襞(ひだ)が暗示される。