徳岡神泉(1896-1972) 一幅 大正末年頃 絹本墨画淡彩 93.0×120.0cm
奈良県立美術館40選
絵画(近代・現代)
水中をゆったりと遊泳する三尾の鯉を描く。しなやかな魚の姿態を異なる視点から捉え、鱗の一枚一枚にいたるまで克明に描きだしている。堅実な描写ながら水中に浸透する光と影の存在が空間に奥行きを与え、画面には神秘的とも言える生命感が漂っている。 徳岡神泉は京都市に生まれた。初め竹内栖鳳の画塾に学び、大正6年京都市立絵画専門学校を卒業。芸術上の悩みから一時富士山麓に移り住み、存在の核心に迫ろうと細密描写に傾倒。その後中国宋元画の研究をうかがわせる花鳥画などを描いて帝展で初入選を果たした。以後官展で活躍。次第に画面の単純化と装飾化を進め、戦後は深い内省から生まれる独特な花鳥画を描き、独自の象徴的な絵画世界を展開した。昭和41年文化勲章受章。 本作は円山・四条派の写生を基礎に西洋の写実画法や日本画、東洋画の伝統を省みて写実を追求した大正期の作品。新たな方向性を模索していた初期の稀少な作例である。
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