近年、北海道産小麦のパンや国産小麦のうどんなど、国産の小麦粉を使った製品がスーパーに多く並ぶようになりました。外国産小麦粉よりも身近に感じられるこういった商品を購入したことのある方が多いと思います。それでは、奈良県でも小麦が栽培され、全国的には少量ですが高品質な小麦粉になっていることをご存じでしょうか。小麦は収穫した子実(お米よりひとまわり大きいサイズ)の内側の白い胚乳部分だけを細かく砕くことで、白くきれいな小麦粉になります。しかし、その作業は精密で通常は製粉工場で行われるため、農業者が栽培した小麦をそのまま家庭で消費することはほとんどありません。そのため小麦製品は日頃よく食べられていますが、一般には栽培の過程をよく知られていない作物でもあります。
奈良県の小麦は11月下旬に種がまかれて寒い冬を経て生育し、4月中旬に穂が出たあと開花、登熟して6月上旬に収穫されます。多くは夏期に栽培するお米や大豆の裏作として栽培されますが、過湿に弱いため、種をまく前には深い溝を掘って土を乾かす作業が必要です。また収穫量を増やし高品質化するために、1~2月の茎の数が増える時期や4月の開花期に追肥をします。開花期には赤かび病を防ぐため、防除作業も欠かさず行います。収穫はコンバインで行われ、収穫した子実は乾燥した後、県内の製粉工場で白い小麦粉になります。2月の今頃は背丈の低い緑色の株の列がおよそ30cmおきに並んだ様子が見られ、4月中旬には穂が出て1m近い高さになります。そして6月上旬の収穫期には畑一面が黄金色の麦秋の風景が見られます。小麦栽培は田原本町や桜井市で多く、近鉄新ノ口駅と笠縫駅間の車窓から眺めることができ、三輪山の近くでも小麦畑が広がっています。大切に栽培されている様子が見られるので、小麦をより身近に感じてみてください。
小麦を栽培して小麦粉にするまで
【豆知識】
もともと奈良県は小麦栽培が盛んで、三輪素麺や半夏生餅(はげっしょうもち。つぶした小麦入りのお餅で、小麦の収穫や田植えが終わる半夏生、7月2日頃に実りに感謝して食されてきました。)など、伝統的な小麦食品が昔から食べられています。現在の県産小麦粉は「ふくはるか」という品種の中力粉で、加工業者からはダマになりにくく高品質と評価されています。県産小麦粉の多くは県内の学校給食用パンに使用され、他にもホットケーキミックスや冷凍お好み焼き、ロールケーキ等で利用されており、人気です。現在、農業研究開発センターでは、パンや素麺に適した強力粉品種の検討を進めており、よりおいしい県産小麦のパンや三輪素麺を目指して栽培試験や加工試験を行っています。県産小麦の栽培面積は現在100ha程と少なく流通量は限られますが、直売所などで県産小麦を使用した商品を見かけた際は、ぜひ地元奈良で育った小麦を味わってみてください。