奈良県を代表する農産物の1つにイチゴがあります。奈良県のイチゴ品種である‘アスカルビー’や‘古都華’は酸味と甘みのバランスが良く、幅広い世代で人気があります。そんなイチゴの栽培は、苗を作ることから始まります。今回はイチゴの「苗作り」について、その特徴をご紹介します。
農業では広い面積で栽培が行われるため、たくさんの苗が必要になります。1000平方メートルの畑で考えると、トマトではおよそ2,000株、キャベツでは4,000株、イチゴでは8,000株もの苗が必要となります。では、どのようにしてこれほどの苗を作っているのでしょうか?皆さんもご存じのとおり、トマトやキャベツでは、種をまいて苗を作ります。一方で、イチゴの場合は別の方法で苗作りが行われています。それは、イチゴのランナーを使った方法です(写真)。皆さんは、イチゴの株から細長いツルのようなものが伸びているのをご覧になったことはありませんか?この細長いツルのようなものをランナーといいます。イチゴは、株の根元近くからランナーを出し、その先端に小さな新しい苗(子株)を作ります。さらに、その子株からもランナーを出して次々と新しい子株を増やします。重要なのは、このランナーの先にできる子株が元の株(親株)と全く同じ性質を持つということです。つまり、‘古都華’のランナーの先にできる全ての子株が‘古都華’と全く同じ性質を持つので、子株を増やすことで、‘古都華’の苗を大量に作ることができるというわけです。このように、イチゴでは種をまかずに、ランナーを使った方法で苗作りが行われています。
また、親株から苗を増やし、畑へ植え付けるまでには約5ヶ月ほどの期間がかかります。冬から春に収穫する促成栽培の場合、4~7月に親株からのランナーで苗を増やし、これを8~9月にかけて大きくします。成長して大きくなった苗は、9月下旬頃にようやく畑へ植えつけられます。
【豆知識】
イチゴではランナーによって同じ性質の苗を作ることができますが、新しい性質をもった新品種の開発はどのようにして行われているのでしょうか?実は新品種の開発では、イチゴの種をまいて、その中から理想の株を選抜する方法がとられています。例えば、甘くて病気に強い新品種を作ろうとしたとき、甘い品種と病気に強い品種を用意して、この2つの品種をかけ合わせて種を作ります。できた種から育つイチゴは、酸味が強いものや甘いもの、小さいものや大きいもの、病気に強いものや弱いものなど、親品種に近い特徴が現れやすいのですが、その特徴は様々で同じものは現れません。この多様な性質を持った苗の中から、長い時間をかけて、美味しくて病気にも強い、理想のイチゴが選抜されることで新品種が生まれます。このように、普段のイチゴ栽培では種まきを行いませんが、新品種の開発では種まきが欠かせないものになっています。(写真:イチゴのランナーと子株)
