奈良新聞掲載記事集

令和6年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

吉野本葛について

奈良県を代表する食材の一つに、吉野本葛があり、吉野地方で製造された葛粉(くずこ)のことを指します。葛粉は、マメ科のつる性多年草であるクズの根から採れるでん粉を水で晒し(さらし)、精製して作られます。クズは、日本人に馴染みのある野草として、古くは「万葉集」にも登場しており、葛粉だけでなく、家畜の飼料や葛布(くずふ)として重宝されてきました。しかし、近年では雑草としての被害が深刻化しており、高速道路への侵入、電柱や電線への巻き付きなど、「クズ」=「雑草」としての印象が強くなっているのではないでしょうか。ここで、少し奈良県と葛の関係を紐解いてみると、葛に関する最も古い資料として藤原京から出土した木簡が残っています。そこには葛粉ではなく、葛根と記載されています。もともとは、葛根は漢方薬の材料として利用されており、「葛根湯(かっこんとう)」は葛根を原料とした風邪薬として皆さんもご存じではないでしょうか。葛という名前は、国栖(くず)(※奈良県吉野町に現存する地名)の人が葛の根からでん粉を取って、それを売り歩いたことが由来とされており(諸説あり)、修験道の地でもある吉野地方から、修験者たちの滋養食として広まったのではないかとも言われています。薬ではなく、葛粉として菓子や料理に使われるようになったのは、鎌倉から室町時代以降と言われており、その頃の書物には、葛料理や葛切りに関する記述が登場します。県内で葛粉を製造している会社では、熟練した職人の知識と経験により、現在もなお当時と変わらぬ伝統製法を守り抜いています。当センターでも、令和6年度より、奈良県の伝統的な食文化を維持・継承していくために、葛粉の原料となる葛根の安定生産を目指した技術開発に取り組んでいます。
〈参考〉「奈良の食文化HP」 https://www3.pref.nara.jp/foodculture/1001.htm

【豆知識】

葛粉ができるまで
葛粉の原料となる葛根は、基本的に「掘り子(ほりこ)」と呼ばれる職人が天然物を手作業で掘り上げます。重いもので約100kgもあり、ここまで育つには30年以上かかると言われています。葛根は、洗浄後、機械等で繊維を破砕し、水中ででん粉を揉み出します。その後、繊維を絞ってこし布で濾過します。絞り汁は、でん粉が沈殿するまで静置し、でん粉と上澄み液に分離されます。できあがったものを粗葛と言い、それをさらに水に溶かして、攪拌し、不純物を分離していきます。攪拌した後は、再びでん粉を沈殿させます。この溶解から沈殿という一連の工程は「晒し」と呼ばれ、葛粉の品質を高める上で重要な作業です。この作業は、雑菌の繁殖しにくい冬季に行われるため「寒晒し」や「吉野晒し」とも言われています。晒しを何度も繰り返して精製し、最後に十分乾燥させたら完成です。このように、葛粉は手間暇かけて製造されています。(写真上:吉野本葛 下:クズの花)

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令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和3年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和2年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成30年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。