ウメは早春に開花を迎え、いち早く春の気配を感じさせてくれます。ところで、ウメをはじめとする落葉果樹の花芽の発達は前年の夏から秋頃に始まりますが、最終的に開花するのは冬を過ぎてからです。残暑が厳しい年であっても、秋に花が咲くことがないのは不思議な感じがします。
この現象には、落葉果樹の持つ「休眠」というメカニズムが関係しています。夏から秋頃に始まる花芽の発達は、冬になるといったん停滞し、春になると再び進むようになって開花に至ります。この、冬に花芽の発達が停滞する現象を休眠と呼びますが、休眠には、どれだけ適温におかれても花芽が発達しない「自発休眠」と、適温におかれると花芽が発達する「他発休眠」があります。花芽は秋から冬にかけて自発休眠に入り、一定時間以上の低温に遭うと自発休眠から覚めて他発休眠状態に移行します。この仕組みによって、落葉果樹は春に気温が十分高くなってから花を咲かせることができます。
本県のウメの主力品種「白加賀」について、過去25年間の奈良県果樹・薬草研究センター(五條市)での満開期は、最も早い年で2月24日、最も遅い年で3月27日であり、1ヶ月程度の違いがみられました。また、いわゆる暖冬の年には開花が早い傾向がみられました。ウメは、サクラなどと比べると自発休眠から他発休眠に移行する時期が早く、開花時期は他発休眠の時期の気温の影響を強く受けると考えられます。
なお、秋から春にかけての気温をもとに、ウメの開花時期を予測する方法が開発されています。ウメの開花時期を予測することは、生産現場では交配用のミツバチの導入時期を決める上で重要です。また、ウメを観光資源としている地域にとっても、観光客への情報提供や混雑予測に活用できると考えられます。
今年の春は、開花情報を参考にしながら、県内各地のウメの名所にお出かけしてみてはいかがでしょうか。
【豆知識】
ウメの品種は、実を収穫するための「実ウメ」と、花を観賞するための「花ウメ」に分けられます。花ウメの品種であっても、果実を梅酒や梅干しなどにすることはできますが、一般的には実がつきにくかったり、実が小さく果肉が少なかったりします。そのため、梅酒などを作りたい場合には、実ウメの品種を用いることをおすすめします。
また、ウメには自分の花粉では結実しない性質(自家不和合性)を示す品種が多くあります。そのような品種を栽培する場合には、異なる品種を一緒に植える必要があります。例えば、本県のウメ産地では、主に「白加賀」、「南高」および「鶯宿」の3品種が混植されています。なお、ウメの開花期は品種によって異なり、また「白加賀」のように花粉がほとんどない品種もありますので、品種を選ぶ際には注意してください。(写真:開花を迎えたウメ産地(2020年3月1日、五條市))