奈良新聞掲載記事集

令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和3年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

刀根早生柿の生い立ち

9月になると果物売り場に出てくる「たねなし柿」は「刀根早生(とねわせ)」と言う品種で、数多くある柿の中でも現在生産量が第1位です。この柿は、奈良県天理市の刀根さんが育成した品種で、10月に収穫される「たねなし柿」の「平核無(ひらたねなし)」よりおよそ半月ほど早く収穫出来ます。
 「刀根早生」の誕生物語は、昭和34年に近畿地方を襲った伊勢湾台風から始まります。台風は天理地域でも強い風を吹き荒らし、柿園にも大きな被害を与えました。柿の栽培農家は復興を目指して、翌年の春に主要な枝が折れた樹に、同じ「平核無」を腹接ぎという方法で接ぎ木をしてまわりました。その後、樹は枝を伸ばし果樹園は復興していったのですが、刀根さんが接ぎ木した樹の中の一枝が他よりも早く色づく果実を実らせていたのです。昭和44年にそのことに気づいた県の天理地域担当者が、同じく県の農業試験場に調査を依頼したのですが、その時は色づきを早くする他の要因も考えられたため新品種とは判断されませんでした。
品種として登録されるのは、さらに約十年が経過し、天理地域で明らかに着色の早い「平核無」が存在することを確認してからになります。最初の接ぎ木から約二十年が経過していますが、この遅れが品種登録作業をスムーズにさせました。というのは、それまで不良種苗を取り締まることを目的として優良な種苗だけが登録を許されていた「農産種苗法」が、昭和53年に植物新品種を保護することを目的とした「種苗法」に変更されていたのです。「刀根早生」の樹姿は「平核無」に非常に近いものの、果実の早熟性、枝梢の節間が短い点で「平核無」との相違が認められ、昭和55年3月に無事品種登録がなされました。
 現存する原木を10月に見ると、1本の樹で片方の主枝が「刀根早生」で、もう片方の主枝が「平核無」のままということが果実の着色具合で良くわかります。

【豆知識】

「刀根早生」誕生のきっかけとなった伊勢湾台風からちょうど四十年後の平成11年7月に、「刀根早生顕彰碑」が発祥の地である奈良県天理市萱生に建立されました。これは、奈良県果樹研究会が中心となって関係機関の協力のもとで建てられたものです。「刀根早生」に関わりを持って生活している人達の感謝の碑とも言えます。
「刀根早生」の登場により、収穫時期が9月中旬まで前進し、ハウス栽培では収穫時期がさらに早くなりお盆の商材にも仲間入りすることができました。その経済効果は計り知れないものがあり、奈良県の柿生産農家の経営規模拡大や後継者の確保につながりました。また、その効果は農家以外の周辺地域の住民にも及び、収穫など多くの農作業の雇用が生まれています。
天理街道・国道169号の(朝和小学校前)の交差点、またはバイパス・県道51号の(萱生)の交差点を東に少し入ったところに、「刀根早生顕彰碑」を見ることができます。

(刀根早生発祥の碑=天理市)

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令和2年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成30年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。