イチゴのおいしい季節になりました。現在のイチゴは、江戸時代に持ち込まれたオランダイチゴが先祖であり、品種改良により現在のものになりました。‘アスカルビー’、‘古都華’、‘珠姫’の3品種と、令和2年に品種登録出願公表された‘奈乃華’は奈良県が育成した自慢のイチゴです。さて、イチゴ栽培で生産者さんを悩ます病気があります。それはイチゴうどんこ病です。うどんこ病が発生すると、葉や茎、果実がうどん粉をふりかけたように白くなります。これはイチゴに白いカビが発生している状態で、顕微鏡でのぞいてみるとたくさんの胞子がついています。発生した果実は出荷できなくなるだけでなく、放置しておくと胞子が空気中を浮遊し、畑全体に蔓延します。そのため発病した果実や葉は早めに取り除かなくてはなりません。さらに、対策としては農薬による防除もありますが、同じ農薬を使い続けると、農薬が効かない耐性菌が発生しやすくなります。そこで、奈良県農業研究開発センターでは、元々自然界に存在し、病気や害虫から植物を守っているカビを主成分とした人と環境に優しい微生物農薬の研究を行っています。我々が注目している微生物農薬は、自然界に存在し、たくさんの種類の昆虫に寄生するボーベリア菌というカビを利用したものです。近年このボーベリア菌が植物の免疫力を高め、うどんこ病菌にも効果があることがわかりました。この微生物農薬を用いれば、一度に病気と害虫を退治できる可能性があり、現在、当センターでは国や他県の研究機関、大学および民間企業と共同で、イチゴ栽培現場で、この微生物農薬を活用した防除体系に関する研究を行っています。また、センター内だけでなく、県内のイチゴ生産者さんの協力のもと畑をお借りして実証試験を行っています。うどんこ病菌という「悪いカビ」を、ボーベリア菌という「良いカビ」で退治する技術が、1日も早く現場で実用化できるように取り組んでいるところです。
【豆知識】うどんこ病は、カビの感染で起こるもっともよく知られた植物の病気のひとつです。うどんこ病菌は比較的乾燥した、冷涼な気候を好み、生きた植物からしか栄養分を吸収できません。また、うどんこ病菌は約200種類も存在し、そのほとんどは寄生する植物が違います。例えば、イチゴのうどんこ病菌はナスには寄生しませんし、バラのうどんこ病菌はトマトには寄生しません。家庭菜園のイチゴ栽培では予防策として、葉や株の間を空けて風通しをよくしたり、窒素肥料を控えめにします。もし、うどんこ病の症状を見かけたら、胞子を飛ばさないように葉や果実を慎重に取り除き、ホームセンターなどで売られているうどんこ病に登録がある家庭園芸用の殺菌スプレーを散布しましょう。また、家庭菜園でイチゴを栽培する場合はうどんこ病に強く、作りやすい‘宝交早生(ほうこうわせ)’という品種がおすすめです。