現在、化学肥料の主要成分であるアンモニアのほとんどはメタン由来の水素と空気中の窒素を反応させることで製造されています。この反応は高温高圧の条件下で行われますが、実は自然界にも空気中の窒素をアンモニアに変え、さらにそれを共生する植物に供給する根粒菌という微生物が存在します。今回は根粒菌と、肥料として利用できる緑肥作物についてご紹介します。
根粒菌はマメ科植物と共生する細菌で、普段は他の微生物と同様に土壌中で活動しています。しかし、マメ科植物の根が伸びてくると、その根に侵入し、根粒と呼ばれる小さい粒が根に形成されます。根粒は生育途中のダイズなどを引き抜くと写真のように簡単に観察することができます。この根粒は植物と根粒菌の共生の場となっており、根粒菌は自らの酵素を使って空気中の窒素をアンモニア変え、それを共生する植物に供給します。これにより植物は実質的に空気中の窒素を養分として利用することができます。そのかわりに、植物は光合成で得られた有機物を根粒菌に供給します。この物質のやり取りによって根粒菌と植物の共生関係が成り立っています。
この関係を利用して、生育途中のマメ科植物を刈り取り、土壌中にすき込むことで、実質的に空気中の窒素を後作物の肥料として利用することができます。肥料にすることを目的として栽培される作物を緑肥作物といいますが、特にマメ科の緑肥作物は空気中の窒素を肥料として利用できることから、化学肥料の使用量を減らす効果が期待できます。代表的なマメ科の緑肥作物として冬作ではヘアリーベッチやレンゲソウ、夏作ではクロタラリアが挙げられます。緑肥作物はその種類や刈り取り時期、すき込み後の温度条件などによって肥料としての効果が異なるため、効果的に利用するための研究が各地で行われています。
【豆知識】
緑肥作物は肥料用途以外にも様々な目的で利用されています。例えば、ヘアリーベッチは雑草の発生を抑制する物質を放出するため、休耕田や果樹園で雑草管理の省力化のために利用されることがあります。また、クロタラリアは線虫の抑制効果があります。この効果は品種によって程度が異なるので利用する際にはカタログなどを確認ください。根粒菌による窒素の供給はありませんが、イネ科の緑肥作物であるソルガムは、耐塩性が高く、土壌中の窒素を吸収する力が強いため、土壌中に過剰に蓄積した養分を取り除く目的で栽培される場合があります。この用途で利用する際は、刈り取ったソルガムは土壌中にすき込まず、農場の外に持ち出します。また、緑肥作物をすき込んだ直後は、土壌微生物による分解によって植物の生育を阻害する物質が発生します。そのため、後作物の播種や植え付けは緑肥のすき込みから2週間程度空けてから行うようにしましょう。(写真:ダイズの根に根粒がついている様子)