奈良県では昔から寺や神社でお酒が造られていました。大神神社は酒造りの神様として信仰を集め、春日大社には日本最古の酒殿があり現在も酒造りが行われています。また、奈良市の正暦寺(しょうりゃくじ)は清酒製造技術を確立した地とされています。奈良と酒の関わりは非常に深いと言えます。
清酒は、米、米麹(こめこうじ)と水を原料として発酵させて、こしたものです。このうち、米麹を作るための原料となるのが酒米(正式には酒造好適米)で、仕込みで使われる米の全体量に対する割合は2~3割と少ないですが、清酒の質を左右する最も大切なものです。
酒米は、精米の工程で砕けにくいこと、蒸した際に表面が粘らずさばきやすいこと、麹菌が繁殖しやすいこと、発酵のタンクの中で良く溶けること、アルコールの発酵が順調に進むこと、といった性質が求められます。このため、主食用米とは形質が大きく異なります。
酒米の中心部には白く不透明になった「心白」がはっきりと見えます。「心白」はデンプン質が粗く柔らかいため、麹菌が米の内部深くまで素早く繁殖できるという性質があります。また、酒米は、大吟醸では元の50%の大きさになるまで表面を削って使われますが、このような高度な精米に耐えられるよう、十分に粒が大きいことと、割れにくいことも重要な形質となります。また、成分面では、酒米のタンパク質の割合が高いと雑味の原因となり、タンクの中で溶けにくくなるため、タンパク質含有率が低いことが求められます。発酵が進むよう各種ミネラルをバランス良く含んでいることも重要です。
これらの性質は酒米が本来持つ遺伝的な性質に左右されることが多いのですが、タンパク質含量やミネラルバランスは酒米農家の栽培技術や土質・天候でも変化するため、植え付ける場所や栽培管理の方法には、主食用米以上に細やかな注意が払われています。
秋の味覚が楽しめる季節になりました。旬の食材と一緒に、蔵元と農家の二人三脚の技術の結晶である清酒をお楽しみください。
【豆知識】
酒米の代表的な品種には、「山田錦」「五百万石」「美山錦」「雄町」などがあり、県内でも多くの蔵元で使われています。一方、各都道府県でも地域の自然条件に適した酒造好適米品種が奨励されており、奈良県では「露葉風(つゆはかぜ)」が昭和40年に準奨励品種に採用されました。出来上がったお酒はキレのよい淡麗志向のお酒と評価されています。「露葉風」は、昭和38年に愛知県農業試験場で育成された品種ですが、栽培が困難なことから昭和57年~昭和59年に一旦栽培が途絶えました。その後、農家や関係者の努力により復活し、令和元年は127tが生産され、県内約20社の蔵元で使われています。
また、県内の生産者が作りやすく、かつ美味しいお酒を造ることができる酒米を目指して、奈良県では、「露葉風」に加えて、独自の酒米品種の育成に取り組んでいます。