奈良新聞掲載記事集

令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

柿の種はいくつ入る?

 春になり、果物の花も咲いてきます。柿の木には、5月下旬に写真のような花が咲きます。受粉した後、果実に生長していき、その中に「柿の種」ができ上がります。
「柿博打(かきばくち)あっけらかんと空の色」(俳人協会評議員;岩城久治)。季語は「柿博打」で秋です。仲の良い連中が集まって、柿の種の数で賭けをしている様子を詠んでいます。
ところで、実際に柿の実にはいくつまで種が入るのでしょうか。生態学的には、柿の花の雌しべは4つの心皮(しんぴ)が合わさってできており、1つの心皮には2つの種の元「胚珠(はいしゅ)」がついていて、全部が生長すると最大で8個まで種が入ります。心皮とは、花を形成するために葉が変形したもので、ちなみに他の果物では、桃の花は1つ、リンゴの花は5つの心皮からできています。
実際に、たねなし柿の”刀根早生”のヘタの反対側の果実の表面をよく見てみると、中心から四方に4本の筋が入っており、4つの心皮が合わさった跡が見て取れます。この4本の筋が名前の由来となった”四ツ溝柿”(よつみぞがき)という柿もあります。
さて、「柿の種」は、果実の中でどんな働きをしているのでしょうか。渋味が残りやすい不完全甘柿の”筆柿”などでは種の周りの渋味を消したり、甘柿の代表的な品種”富有”では果実の肥大に影響して、種が入っていない”富有”の果実はヘタの反対側の先端が少し凹んでいます。また、果物は全般的に種が入らないと収穫までに自然に落ちてしまうことが多いのですが、柿の場合は種が入らなくても落ちにくい性質(単為結果性)を持っている品種が多くあり、”刀根早生”などは種が無いのにたくさんの実が成ります。
最後に、筆者の亡き祖父は今の大阪市南部で大正時代期に「柿博打」が強かったそうなのですが、どんな品種の柿でどこを見て「柿の種」の数を判断していたのかが気になります。(写真:柿の雌花 品種「富有」)

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【豆知識】

 「柿の種」といえば、ピーナツが一緒に入っている米菓を思い浮かべます。最近ではチョコレートでコーティングされたものも売られています。でも、その形状は細長く、見慣れている”富有”柿などのそれとは明らかに違います。これはこの米菓が最初に作られたのが新潟県で、形がその地域にある柿の品種”大河津”(おおこうづ)の種に似ていたことに由来します。”大河津”に限らず、果実の形が”筆柿”や”法蓮坊”のように小さくて縦長の形をした品種であれば同様の種が入ります(写真参照)。
柿は日本国内に約1000の品種があると言われており、県果樹・薬草研究センター(五條市)では、このうち約200品種を保持しています。残念ながらその中に”大河津”はありませんが、秋には、併設している柿博物館(入館・駐車場無料)に、早生から晩生まで果実の現物が順次展示されます。興味のある方は、是非一度訪れてみてください。(写真:柿の果実と種 品種「法蓮坊」)

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令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和3年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

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平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成30年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。