ワインは長い歴史をもち、世界的に親しまれているお酒で、そのほとんどはブドウを発酵して作られます。巨峰やデラウェアといった生食用品種が用いられることもありますが、多くはワイン専用の品種(以下、「ワインブドウ」と呼びます)が原料として利用されます。ワインブドウはヨーロッパを原産地とする品種が多く、雨の多い日本では栽培が難しいとされますが、国内でもワインブドウを栽培し、純国産ワインを製造しているワイナリーは多く存在します。令和3年の国税庁の調査では、国内で製造されたワインの原料のうち、国産原料の割合は33.5%を占めています。また、国内のワイナリー数は413場で、都道府県別のワイナリー数としては、山梨県の92場が最多となっています。令和3年の時点で奈良県にはまだワイナリーがありませんでしたが、令和4年には奈良県にも初となるワイナリーが誕生しています。
しかし、奈良県内ではワインブドウの栽培調査事例はありませんでした。そこで当センターでは、奈良県のワイン生産を後押しするため、世界的に広く栽培されている代表的なワインブドウ3品種、メルロー、シャルドネ、カベルネ・ソービニョンを選び、標高の異なる県内3地点(奈良市、宇陀市、五條市)で試験栽培して特性を調査しています。なお、メルローとカベルネ・ソービニョンは果皮が赤黒い黒ブドウ品種、シャルドネは果皮が緑の白ブドウ品種です。本年度で定植5年目となりますが、いずれの品種とも全く栽培できなくなるような致命的な問題はみられず、収量面ではメルローがやや優れる傾向が見られます。ただし、べと病などの病害が大発生する場合があり、春の萌芽期から早めの防除を徹底する必要があることが分かりました。今年度末まで調査を継続し、結果をとりまとめたいと考えています。
【豆知識】
ワインブドウは、栽培された土地の気候や土壌などの環境条件が作用して、同じ品種であってもワインに特有の個性が生まれると考えられています。この栽培地固有の環境条件は「テロワール(terroir)」と呼ばれます。近年は国内のイベントなどで用いられることもあるため、聞いたことのある方も多いかもしれません。なお、語源としては、フランス語で土地を意味する「テール(terre)」から派生したものと考えられています。古来から、テロワールはワインブドウ栽培において非常に重要視されており、今日でもワインのブランドを形成する要素の一つとなっています。
これからは、奈良テロワールのワインが増えていくかもしれません。お店やネットで見かける機会がありましたら、是非手に取って頂き、奈良にしかない魅力を感じ取って頂きたいと思います。
(写真 当センターで試験栽培しているワインブドウ 左:メルロー 中央:シャルドネ 右:カベルネ・ソービニョン)